ベンチマーク調査とは?意味、項目、手法をわかりやすく解説
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はじめに
ここではベンチマーク調査について、基本知識、分析の具体的な進め方について、事例を交えながら、分かりやすく解説していきます。
この記事を読んで分かること、できるようになること
●ベンチマーク調査の意味、基本知識を習得できる。
●ベンチマーク調査の個表やグラフのまとめ方を知ることができる。
●ベンチマーク調査に関するQ&Aやまとめ資料を、無料でダウンロードできる。
ベンチマーク調査とは
ベンチマーク調査とは、自社の事業の持続的な継続、また新商品やサービス開発などを目的として、市場において競合となる企業をベンチマークとして分析することです。
ベンチマーク調査は単なる競合調査とは異なり、まず自社の現状を客観的に知ることからスタートします。そのためには、マーケットリーダーや自社と近い競合企業の現状を知ることから始めていきます。
ベンチマーキングとは
ベンチマーク調査の元を辿ると、「ベンチマーキング」に行きつきます。1979年、米国のゼロックス・コーポレーションが、日本の複写機メーカーの攻勢によりシェアダウンに直面、それを乗り切る必要があるという背景から同社によって創出されたのがベンチマーキングです。
ベンチマーキングとは、自社を、競合企業、特にリーダーシップをとっている企業と比較することで、自社の事業や戦略、商品を継続的に測定し、客観的な情報をもとに、自社の計画を作成し具体化することです。
ベンチマーキングは単なる競合分析ではなく、自社にとって参考となる異業種の事例を研究したり、競争の中での自社のあるべき姿と、現状のギャップをどう埋めていくのかを策定する継続的な作業です。
この継続的なベンチマーキングのステップのうち、情報収集・分析のステップを、ベンチマーク調査と呼んでいいでしょう。
ベンチマーク調査と一般的な競合調査との違い
競合調査の代表的なものでは、「ファイブフォース分析(5Forces分析)」「3C分析」「バリューチェーン分析」「4P・4C分析」があります。
ベンチマーク調査では、売上高や利益高のような業績推移、店舗・拠点数など詳細な数値データの収集が不可欠な点がそれらとは異なります。
データを収集・分析・比較した上で、戦略・戦術レベルに落とし込めるような「3C分析」などのフレームワークを作成するといった流れが良いでしょう。
ベンチマーク調査のポイント
ベンチマーク調査を行うにあたり、まず押さえておきたいポイントは以下の通りです。
1.課題
現在、自社が抱えている問題点を明確にし、問題点を解決するための課題を設定する。
調査会社などに調査を依頼する場合には、「調査背景」という項目となることもある。
2.目的
「何のためのベンチマーク調査か?」の明確化。例えば、自社商品やサービスの競合企業に対するシェアアップ、競合に対する顧客満足度の優位性確立、など多岐に渡る。
3.範囲
調査目的を達成するため、ベンチマーク対象企業の、どのデータをどの程度の粒度感(売上高だけでなく利益高まで必要か?単年か時系列か?など)で必要か明らかにする。
さらにベンチマーク調査のカバー範囲(※詳細後述)を明確にする(⇒範囲により調査方法が変わることで、コスト・費用・期間が大きく変わる)。
4.ゴール
ゴールはできる限り明確にしておく。但し、必ずデータが取得できる生活者対象の定量調査とは異なり、産業調査の場合は想定通り100%の情報収集は不可能と考えたほうが現実的。
⇒「最低限、ここまでの数字は、推定値でもいいから欲しい」などを決める。
ベンチマーク調査のカバー範囲、調査の種類
一口にベンチマーク調査と言っても、カバーする範囲・調査の種類(種別)は様々です。
カバー範囲 |
調査種別 |
〈1〉自社にとってベンチマークとなる企業の内部情報にとどまる場合 |
産業調査(B to B) |
〈2〉さらに、ベンチマーク企業の取引先や業界内部でのステークホルダー情報が必要な場合 |
産業調査(B to B) |
〈3〉さらに、ユーザーを含めた生活者にとっての認知・理解・ブランドイメージなど生活者情報まで必要な場合 |
生活者調査(B to C) |
ベンチマーク調査の手法
基本となる企業の内部情報およびステークホルダーを対象とする産業調査(B to B)と、ユーザーの認知などを知るための生活者調査(B to C)があります。
ベンチマーク調査の項目
ベンチマーク調査において基本となる「企業の内部情報の収集」において、必要不可欠な項目は以下の通りです。
1.基本情報
本社所在地、設立・創業年、資本金、従業員数、主要株主と持ち株比率など。
2.業績推移
売上高、営業利益高、経常利益高、当期利益高など。単独・連結別で。 最低でも3年間の時系列推移が望ましい。
3.組織体制
組織図があればベスト。IR資料に掲載されているケースが多い。
*実際の産業調査において、組織図が重視されるケースが多い。
4.展開事業
支店・営業所・工場・物流拠点などの総数と所在地。
5.主要取引先
主要な仕入れ先と販売先。
6.事業政策
基本戦略は最低限必要。必要に応じて、生産・営業・マーケティング・物流などの詳細も。
7.その他
FC展開の有無など。
〈1〉企業の内部情報の調査手法
まずは無料(一部有料)で閲覧・入手できる公開情報を収集しましょう。
①企業のホームページ
最初に調査に着手する上で手軽かつ最適です。IR情報があれば業績推移のデータが収集できます。
産業調査において重視されている組織図の掲載が多いこともメリットです。
②調査機関の公開情報
帝国データバンクや東京商工リサーチの公開情報
最も一般的なものは帝国データバンクや東京商工リサーチの公開情報です。
前述の企業の内部情報項目のうち、1.基本情報、2.業績推移、4.展開事業、5.主要取引先、6.その他の情報は入手することができます。
但し、ウェブサイトでは有料です。帝国データバンクのサイトでは会社情報のサンプル(見本)閲覧でも500円かかります。
年鑑は、国会図書館はじめ主要都市の公立図書館で閲覧(無料)・コピー(有料)が可能です。
有料ですが、帝国データバンク・東京商工リサーチの企業情報を横断検索できる「G Search」もあります。
産業調査企業発行の資料や新聞社の出版物
産業調査企業が発行する資料もよく使われます。
メリットは、業界全体の市場規模・動向が分析されており、調査員による直接面接取材やWeb・電話取材、アンケート調査による結果なので、広報レベルを超えることのないホームページでの戦略・戦術内容より踏み込んだ内容が期待できます。
但し購入する場合の価格は1冊10万円を超えます。国会図書館など無料で閲覧できる施設は限定されています(しかも直近の資料は閲覧できない場合も多いです)。
主要産業のメインプレーヤーである大企業の売上高など最低限の情報であれば、一般に流通している東洋経済新報社や日本経済新聞社の出版物のデータも有用です。
〈2〉ステークホルダー情報の調査手法
①自社営業担当者などへのヒアリング
日々現場でビジネスに携わっている営業などの担当者は、競合企業の情報を多角的にインプットしているケースが少なくありません。調査の最初のフェーズにおいて、まずは自社内の人的リソースからという姿勢も大切です。
(自社内の組織を横断したナレッジマネジメントが確立している企業では当然かもしれません。)
②取引先企業の担当者へのヒアリング
上記①で収集できない情報は、例えばメーカーの場合、自社と取引をしている卸や小売り業者へのヒアリングも有効です。
但し、多忙な相手に時間と労力の負担をかけてしまうことに気を配る必要があります。正式な調査というより、雑談レベルから入っていくのが現実的です。
③専門の産業調査会社に依頼
上記①と②ではカバーできない情報ならば、専門の産業調査会社(矢野経済研究所や富士経済研究所など)に依頼することになります。
調査目的、調査項目・範囲によって、調査会社を選ぶのもいいでしょう。
例)POSデータが必要な場合は、POSデータを扱っている調査会社に依頼する、など。
〈3〉生活者調査の手法
自社や、ベンチマーク対象企業の商品のユーザー(調査目的によってはノンユーザー)を対象とした「生活者調査」が必要な場合もあるでしょう。
アンケート/定量調査
商品やブランドの認知度などを調査項目とする場合は定量調査をおこないます。
セルフリサーチで自社が主体となって行う場合であれ、調査会社に依頼する場合であれ、統計的な有意性が求められるため、偏りの少ない調査対象者パネルを使うことが望ましいです。
アンケート/定性調査
自社やベンチマーク対象企業のエンドユーザーが「一般消費者」の場合は、グループインタビューやデプスインタビューを行うときもあります。
リクルートの手間がかかることと、調査の客観性を担保するためにも、定量調査と同様、専門の調査会社に依頼することが理想的です。
ベンチマーク調査のアウトプット
ここではベンチマーク調査におけるアウトプットの例を取り上げます。特に決まったフォーマットが存在するわけではないためオリジナルとなりますが、参考にしてください。
産業調査の個表フォーマット例
帝国データバンクや東京商工リサーチなどの資料(無料閲覧可能な年鑑や有料のサイト)で入手できる、基本的な産業調査データを個表としてまとめたフォーマット例です。
ベンチマーク調査結果のグラフ化(基本)
産業調査の個表データ(業績推移、店舗数など)や、生活者調査の定量データは、集計・グラフ化して報告書に盛り込みます。ここでは基本となる「円グラフ」、「折れ線グラフ」、「帯グラフ」、「棒グラフ」の4種類のグラフ例を載せます。
■円グラフ
■帯グラフ(縦・横)
■折れ線グラフ
■棒グラフ
ベンチマーク調査結果のグラフ化(その他)
基本のグラフの他にも、ベンチマーク調査では、レーダーチャートによって、自社とベンチマーク企業とのパフォーマンスを比較するケースが多く見られます。
■レーダーチャート
■複合グラフ
■散布図
■バブルチャート
ベンチマーク調査にまつわる、よくある質問
Q:ベンチマーク調査後の戦略立案時に有効なフレームワークは何でしょうか。
自社とベンチマーク企業だけでなく、取り巻いている業界環境、経済・社会環境の要素を加えた「SWOT分析」や「クロスSWOT分析」などが有効でしょう。
Q:ベンチマーク対象企業が複数あり範囲が広い場合は、専門の調査会社に依頼した方がいいでしょうか。
はい、依頼したほうがいいでしょう。自社の人的・経営的リソースの範囲内でのベンチマーク調査が可能な場合は、依頼しなくても問題ありません。
Q:ベンチマーク調査を専門の調査会社に依頼する上で大切なポイントは何でしょうか。
調査のプロである調査会社には、業界内プレーヤーよりも俯瞰した視点で調査ができるメリットがあります。しかし業界知識・知見は足りないというデメリットもあります。
それを踏まえ、調査仕様(調査課題・目的、調査項目などの一覧)を送るだけではなく、調査企画段階から密にミーティング(オンライン・オフライン問わず)を行うことが重要なポイントです。
無料ダウンロード『ベンチマーク調査のマニュアル 』
本記事で解説した内容をまとめた資料「ベンチマーク調査のマニュアル~調査目的に応じた調査範囲と様々な調査方法~」は、下記よりダウンロードすることができます(無料)。
おわりに(まとめ)
最後に、ここまで解説してきた内容をまとめました。今一度の確認に活用してください。 |
ベンチマーク調査とは、単なる競合調査とは異なり、まず自社の現状を客観的に知ることから始めて、マーケットリーダーをはじめとした自社の競合企業(ベンチマーク企業)の詳細を調査し分析することです。
マーケットリーダーをはじめとしたベンチマーク企業対象のB to Bの産業調査を基本とし、必要に応じて、自社やベンチマーク企業のユーザーを対象にした生活者調査(定量・定性調査)を行います。
調査に不可欠なポイントは、①課題、②目的、③範囲、④ゴールの各項目を明確化することです。
<企業の内部情報・ステークホルダー対象調査>
・企業のホームページ、調査機関(帝国データバンクなど)の公開情報は、無料で収集できる資料や有料サービスがあります。無料で収集できる内容はIR情報レベルです。
・自社営業担当者、取引先企業の担当者へのヒアリングも有効です。
<生活者調査>
・基本は定量調査で、必要があれば定性調査を行います。調査会社へ依頼することが一般的です。
ベンチマーク調査のアウトプットとしては、個表を作成します。重要な数値データはグラフ化して見やすくした上で報告書にまとめます。
【参考文献】
『ベンチマーキングがわかる本』(日本能率協会著、日本能率協会マネジメントセンター、1995年3月)