
3C分析とは?事例&テンプレートあり│リサーチャーが解説!
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はじめに
3C分析とは、マーケティング戦略や自社の事業計画を立てる際に、市場・顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つの視点から分析をおこなう手法のことをいいます。
ここでは、その3C分析について、マーケット(市場)のニーズを調査するプロであるリサーチャーが、事例を交えて解説していきます。
3C分析を初めてやる方はもちろん、基本的なやり方は知っているが分析後の活用方法を知りたい方や、3C分析の事例を知りたい方に、必見の内容となっております。
解説は、マーケティングコンサルタント会社勤務をはじめとして、主要調査会社での勤務・常駐経験が豊富(産業調査10年、消費者調査20年)なリサーチャー井上氏です。
1.外部・内部環境分析としての3C分析
外部と内部の環境分析
企業が事業戦略を策定する際、企業の外部と内部の現実を正確に把握することが必要です。そこで必要とされているのが環境分析です。
環境分析とは情報整理のことです。そして、分析において漏れや重複(ヌケ・モレ・ダブリ)を防ぎながら必要な情報を整理するためのツールがフレームワークです。
代表的なフレームワークは以下の3つです。
(1) マクロ環境分析
政治(Politics)・経済(Economy)・社会(Society)・技術(Technology) を網羅した「PEST分析」。
(2) 3C分析
市場・顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)のうち、市場・顧客(Customer)と競合(Competitor)が『外部環境分析』、自社が『内部分析』。
(3) SWOT分析
外部環境分析では、市場における機会(Opportunities)を探り、自社にとっての脅威(Threats)を見出します。
内部分析では、自社の強み(Strength)と弱み(Weakness)を把握、これら4つの要素を組み合わせて全体を把握します。
今回は、(2) 3C分析の基本、そして商品開発のためのマーケティングリサーチでの活用例を紹介します。
3C分析の基本
3C分析では、「①市場・顧客」と「②競合」が『外部分析』、「③自社」が『内部分析』となります。
※3C分析の基本フレームワークですので、実務上、全ての項目を厳密に網羅するわけではありません。
3C分析の有用性
3C分析の提唱者である大前研一氏が、著書『The Mind of the Strategist』で述べているように、3つのCの関係は相対的なものです。
例えばターゲットである「顧客」のニーズと「自社」がアピールするセールスポイントがマッチしていたとしても、「競合」がそれを上回る価値をもったセールスポイントの打ち出しに成功したら、「自社」の商品は売れなくなります。
あるいは、「自社」と「競合」が同じターゲットに対して、同じセールスポイントを打ち出した場合、「顧客」は両社それぞれの価値を区別できなくなってしまいます。そうなれば価格競争のスパイラルとなり、「競合」とともに共倒れになることもあります。
ですので、整合性のある事業戦略立案のため、3C分析が威力を発揮するということになります。
分析を進める順番
「①市場・顧客(Customer)」、「②競合(Competitor)」、「③自社(Company)」の順が基本です。
「どこで戦うのか?」を決める「市場・顧客」を定めてから、「競合」を定めた上で「自社」の強みを最大限に活かす打ち手を決めます。
ただし、実際には「競合」がわかってから「市場・顧客」を再度分析し直すといったように、マーケティングリサーチプロセスにおいて、3つのCの間を〝行き来する〟ことも少なくありません。
3C分析のテンプレート
下記に3C分析のテンプレートをご用意しています。ダウンロードして、本資料を参考に、自社の検討課題に沿った3C分析を進めてください(無料)。
>>「3C分析のテンプレート」ダウンロードする【該当ページはP6/無料ダウンロード】
2.商品開発でも活用できる3C分析
3C分析のリサーチでの活用例(導入):『着物メーカー』
前項『1.外部・内部環境分析としての3C分析』でみてきた3C分析を行う目的は、「企業の事業戦略の策定」でした。
このようなヌケ・モレ・ダブリのない厳密なフレームワークをそのまま援用するのではなく、マーケティングリサーチの実務では、3C分析フレームワークの「視点」をもって、市場を俯瞰していくことも重要です。
「自社」の経営資源等を洗い出す前段階として、「市場・顧客」と「競合」の概況を俯瞰してみます。
まずは、アンケート調査実施(「一次データ」)の前段階、検索で得られる「二次データ」で十分です。
ここからは、着物メーカーにとっての「国内着物市場のケーススタディ」をみていきましょう。
市場規模と成長性の調査(①市場・顧客分析)
国内の着物関連市場は、人口減少や着付けの難しさなども相まって、このところ縮小を続けています。2007年の市場全体の売上高は4,700億円でしたが、10年後の2017年は2,880億円と大きく減少しました。
メーカーや問屋(卸売り)、呉服店の中には採算がとれず、撤退・経営破綻する企業も増えてきています。(市場規模と成長性)
ただし、ミクロな視点でみると、観光客や若い女性を対象とした着物レンタルショップは着実に増加しています。
自分で着付けをしたり、面倒なメンテナンスといった手間を省いたレンタル方式が定着し、卒業式などのハレの日に限らず、SNSにアップすること(インスタ映え)を狙って、普段でも着物姿になりたいという若い女性のニーズに応えています。
つまり、市場を新しい切り口でみると、伸びている市場もあることがわかります。(市場規模と成長性)(ターゲット設定)
競合の調査(②競合分析)
次に「競合」について考えてみます。販売チャネルに注目すると、着物販売は従来、催事や店舗が中心でしたが、動画コンテンツやSNSなどの普及にともない、メーカーによるインターネット販売が増加、10万円程度で一式揃えられる格安ショップなども売り上げを伸ばしています。
一方、「メルカリ」などに代表される、フリーマーケットアプリによる個人間での売買も増加。さらに、SNSなどを利用した着物のやりとりである「お譲り会」の取扱量も増えています。
こうした既存の販売チャネルを利用しない市場は、近年、急速にそのシェアを拡大しています。
これらの新しいサービスは「代替サービス・商品の可能性」ということになり、顕在的ではない潜在的な競合です。
3C分析のリサーチでの活用例(発展):『食品メーカー』
次に、大手食品メーカーの「メニュー用調味料」(基礎調味料を複合させて調理にすぐ使える形で提供された調味料)の「成熟ブランド再活性化のケーススタディ」をみていきましょう。
ブランドの発売
《メニュー用調味料のAブランド》が発売されたのは、日本の食の洋風化・簡便化が本格化した1978年です。
《Aブランド》は、まだ日本の食卓では馴染みのなかった大皿の中華料理として提案されました。勃興期を迎えていたファミリーレストランで食べられる本格中華料理が家庭で簡単に食べられることがポイントでした。
《Aブランド》はテレビCMでも人気を博し、1990年代半ばまで順調に成長しました。
市場の転機
2002年に競合企業が《和食のメニュー用調味料B》を発売すると、市場に転機が訪れました。
「和食メニュー用調味料」というカテゴリーが生まれ、中華中心だったメニューの領域が拡大しました。
2007年以降は、2008年のリーマンショックによる不況の影響もあり、安価な「もやし」を使ったメニューが人気を博し、《別の競合企業のCブランド》が躍進しました。
2009年頃には、さらに競合企業各社のブランドがヒット、市場の競争が激化するとともに、新規参入プレーヤー企業の売上が市場規模に上乗せされる形で拡大。市場に開拓の余地があることをうかがわせました。
《Aブランド》の反転攻勢
この状況下、《Aブランド》のシェア拡大の主役となった新商品が、2012年8月から首都圏で、2013年2月から全国で、発売されました。首都圏でのシェアは8月の4%から、10月に23%へと急増。売上目標も、当初の27億円から40億円への上方修正が見込まれました。
社会環境の把握(①市場・顧客分析)
《メニュー用調味料Aブランド》のマーケティング担当者は、新商品開発を進めるにあたり、まず社会環境をチェックしました。
※以下、太文字部分が“行われた調査の例”です。赤文字の内容が“アンケートによる定量や定性調査が含まれる”と推察されます。
●総務省の発表によれば、15~64歳の女性の就業率は62.5%と過去最高を記録していた。(デスクリサーチ)
●忙しい時間が増えれば、夕食の支度にかかる時間は短縮する。1994年当時、夕食の支度にかける時間が1時間未満の主婦は36%だったが、2003年に47%に増加していた。(デスクリサーチでデータ取得する場合や、調理実態についての定量調査を実施する場合もある)
以降、調理時間の短縮化は進んでいることが推察された。 |
マーケティング担当者は、忙しい消費者のニーズに、メーカーは十分に応えているか疑問を抱きました。
自社・競合の商品評価(③自社分析、②競合分析)
続いてマーケティング担当者は、自社分析に着手しました。(自社商品と商品カテゴリの定量・定性調査)
その結果、競合ブランドも消費者に高く評価されていることがわかりました。
競合ブランドはデフレ経済の中で、もやしなど人気の食材を用いたメニューを開発、メニューラインの幅を広げていました。
自社分析において《Aブランド》は、「本格的」「メイン」「こってりした味」という評価を得る一方、「手間」と言う点で、若干マイナス評価もみられました。
調理経験の浅い20~30代主婦は、上の世代に比べて「献立」の悩みが深いはずなのに、《Aブランド》はこの層からの支持を十分に得ていないことがわかったのです。
商品コンセプトの策定(③自社分析、②競合分析、①市場・顧客分析)
以上の分析結果から導出される仮説をマーケティング担当者は考えました。
●なぜ競合ブランドの売り上げが伸びているのか?
●《Aブランド》のユーザーは、競合ブランドも使っており、自社と競合の顧客ははっきりとわかってはいないのではないか?(定量・定性調査による仮説検証)
●競合ブランドは、どちらかというと副菜にシフトしており、《Aブランド》を含むメニュー用調味料は、「メインのおかずをどうするか」という主婦の悩みに十分こたえられていないのではないか?
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という仮説を立てて、そこにチャンスがあるのではと考えました。
仮説を検証すべく用いたのは、《Aブランド》のメーカーが独自に開発した調査手法でした(詳細は不明だが、定量や定性調査が含まれると推察される)。《Aブランド》のメーカーは、消費者が商品をどのようなカテゴリーとして知覚しているのかを知る調査手法によって、多くのヒット商品を生み出していました。
調査結果から導き出された知見は、メインとなるおかずで家族みんなが食べられるかどうか、少ない材料で手早く調理できるかどうかということでした。
そして、調理の専門家のアドバイスを参考にして完成した“商品コンセプト”は、「子供も大人も満足する抜群のメインおかずが15分で作れる。唯一の合わせ調味料」。
“ターゲット”は、これまでの《Aブランド》の購入率が低く、毎日の夕食の献立に悩んでいる20~30代の若年主婦層。この層の一番の悩みは、子供が喜んで食べてくれるかどうかでした。
ブランドの検討(③自社分析)
この和風・洋風の新商品に、《Aブランド》を使うことは当初は考えられてはいませんでした。《Aブランド》は長年、「本格中華」ブランドと考えられていたからです。
マーケティング担当者はこの既成概念を疑ってみました。新商品に《Aブランド》を使うべきかどうかを知る目的で、自社のブランドが持つ資産価値(ブランドエクイティ)をチェックしました。(ブランドイメージの定量・定性調査)
《Aブランド》から連想される言葉を自由に挙げてもらうと、第1位は「おいしそう」、2位以下は「作り方が簡単」「本格」「手軽」「中華」と続きました。
意外にも社内で考えられていたほど、「中華」だけに強く連想されているわけではない結果でした。「簡単に、おいしいメニューの素」のブランドとして定着していたわけです。
この結果から、《Aブランド》の傘下で新商品展開が現実性を帯びてきたものの、マーケティング担当者はさらに検証を重ねました。
一つは、設置型アイカメラ装置を使用した店頭棚再現テストを行い、棚における《Aブランド》の有無でどの程度の違いがあるのかを、消費者の向ける視線で測定しました。
その結果、《Aブランド》を用いた方が、消費者の視線がより長い時間向けられることがわかりました。
さらに、《Aブランド》のヘビーユーザーとミドルユーザーに対して、新商品に《Aブランド》を用いることに抵抗感があるか尋ねました。(ブランド受容性の定量・定性調査)
結果、《Aブランド》に和風メニュー新商品が登場しても、既存ユーザーに抵抗がないことが確認されました。
フレームワークのまとめ
ここまで解説してきた『《メニュー用調味料Aブランド》開発における、3C分析のフレームワーク』を3C分析のテンプレートにあてはめて分かりやすくまとめました。下記よりダウンロードしてご覧ください。
>>「《メニュー用調味料Aブランド》開発における、3C分析のフレームワーク」【該当ページはP19/無料ダウンロード】
「3C分析」の活用方法にまつわる、よくある質問
Q:3C分析の「具体的な項目」は、全て網羅する必要があるのでしょうか?
必ずしも必要ありません。先述の「3C分析の基本」で記載した具体的な項目は、基本です。
3C分析を本来の目的である企業の事業戦略策定で使うのであれば、まずは全ての項目を「埋める」こと、つまり、フレームワークの基本をマスターしたほうがいいでしょう。
その前にまず、「3つのCという視点」を持つことが重要です。
そして、今回ご紹介したケーススタディのような場合、マーケティング課題と調査目的によって柔軟に、「分析対象とする項目」と「それらの優先順位」を選んでいくことをお勧めします。
これは極端な例ですが、3C分析の提唱者である大前研一氏は「市場はあるのか?」「競合に勝てるのか?」というたった2つの質問で、企業・事業の「成否」に、おおよその見通しをつけていたそうです。
Q:「①市場・顧客分析」の二次データを得る適切な方法はありますか?
市場規模は、デスクリサーチによって、富士経済グループや矢野経済研究所の出版物のプレスリリースを検索することが最も一般的です(データも時系列)。
しかし、既存市場ではなく新規市場の市場規模を推定したい場合、粗々でいいので、フェルミ推定(世の中にないデータを論理を駆使することで推定)を使ったり、アンケート調査で(スクリーニング調査で十分)推定ユーザー人数を算出、推定した1人当たり利用金額を掛け合わせ、市場規模を推定することもあります。
>>「3C分析」の基本と調査の活用方法に関するQ&Aをもっと見る【資料を無料ダウンロード】
無料ダウンロード『リサーチャーが解説!「3C分析」の基本と調査の活用方法』
本記事で解説した『3C分析とは?事例&テンプレートあり│リサーチャーが解説!』についてまとめた資料は、下記よりダウンロードすることができます(無料)。
こちらの資料では、記事には掲載されていない「すぐに使える3C分析のテンプレート」や、食品メーカーの3C分析のフレームワークのまとめ、よくある質問(市場・顧客分析の二次データの優先順位とは?等)を掲載しています。
下記よりダウンロードしてご活用いただけますと幸いです(無料)。
おわりに
ここまでリサーチャーによる3C分析の基本と活用方法を解説してきました。下準備から調査の実施、その活用方法について、一連の流れを理解いただけたことでしょう。 事例を参考に、市場や顧客・競合の環境をつかんで、自社の強みと弱みの両方を明らかにし、成功要因を探り、戦略の立案につなげていただけたら幸いです。
【参考文献一覧】
『[新版]MBAマネジメント・ブック』(グロービス・マネジメント・インスティテュート著、ダイヤモンド社、2002年2月)/『ブランド戦略論』(田中洋著、有斐閣、2017年12月)/『マッキンゼーで叩き込まれた 超速フレームワーク』(大嶋祥誉著、三笠書房、2020年3月)/『電通現役戦略プランナーのヒットをつくる「調べ方」の教科書』(阿佐見綾香著、PHP研究所、2021年10月)