顧客インサイトに基づく冷凍/完全栄養食品トレンド予測2023
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はじめに
マーケティング・リサーチ業界で広く使われている「顧客インサイト」とは、いったい何なのでしょうか。
また、「冷凍食品」と「完全栄養食」についての自主調査結果から導き出された「顧客インサイト」が、実際に市場動向に反映されているかを検証した上で、2023年のトレンドを予測しました。
この記事で分かること、できること
●顧客インサイトの意味を正しく理解できる。
●2022年の「冷凍食品」と「完全栄養食」についての自主調査で、得られた顧客インサイトが市場動向に反映されたかどうかを知ることができ、さらにの2023年のトレンド予測も知ることができる。
●顧客インサイトとトレンド予測について、詳しい説明やグラフが掲載された資料が、無料でダウンロードできる。
顧客インサイトとは
インサイトの定義
マーケティング・リサーチ業界で広く使われている「顧客インサイト」ですが、まずはじめに、「インサイト」の定義を確認していきましょう。
「インサイト」という用語がマーケティング・リサーチ業界で一般化するきっかけとなったのは、ダイヤモンド社から書籍『インサイト』(桶谷功著)が出版された2005年のことです。
ハーバード大学経営大学院のジェラルド・ザルトマン名誉教授の著書『心脳マーケティング(顧客の無意識を解き明かす)』が国内で発売された年でもあります。
「インサイト」の定義は各社各様ですが、やはり『インサイト』著者の桶谷功氏(出版当時はウォルター・トンプソン・ジャパンのアカウント・ブランディング・ディレクター)の定義が、整理されていて分かりやすい基本といえるでしょう。
まず、インサイト(直訳すると「洞察」)とは、消費者のホンネのことです。ただし、全てのホンネがインサイトであるとは限りません。消費者のホンネのうち、行動を喚起したり、態度変容を促す「心のホット・ボタン」こそインサイトの本質であると桶谷功氏は定義しています。
ポイント |
意 味 |
インサイトの表層 |
消費者のホンネ |
インサイトの本質 |
消費者の行動を喚起したり、態度変容を促す消費者の「心のホット・ボタン」 |
インサイトの必須条件 |
商品やサービスのブランディング、マーケティング活動などのアクション(施策)につながること |
インサイトの種類
インサイトは、カテゴリー・インサイトとヒューマン・インサイトの2つに分けられます。
カテゴリー・インサイトとは
【定義】
消費者が商品カテゴリーに抱いている感情や気持ち、潜在ニーズ、あるいは特定ブランドに対するパーセプション(認識)。購入動機の深層心理や、購入を阻害する心理的バリアなど。
【内容(ハーゲンダッツの例)】
1984年に日本に登場したハーゲンダッツは、1990年にはグローサリーマーケットに参入した。一番の課題は、それまでになかったプレミアム・アイスクリーム市場を創造すること。しかし、消費者の心の中には「アイスクリームは子供の食べ物」という強い固定観念があった。これが最大のインサイトであった可能性もある。
ヒューマン・インサイトとは
【定義】
全ての人、あるいはある世代の人が共通して持っている関心、気持ち、感情などのホット・ボタン。
【内容(ハーゲンダッツの例)】
主婦はハーゲンダッツを冷凍庫の一番奥に隠しているという。手前の方にバーアイスの箱を置いて、見えないようにしているのだ。たいして味もわからない夫や子供に食べられてなるものか、ということが理由のようだ。
種類による使い分け
カテゴリー・インサイトとヒューマン・インサイトは、マーケティング課題によって使い分け、場合によって両方とも使います。
新商品によって新しい市場を作るときは、ターゲットの心理・態度・行動や潜在ニーズから導き出されるヒューマン・インサイトを使います。
既存市場におけるブランドイメージの修正や、商品リニューアルを行うときはカテゴリー・インサイトを使うことが一般的です。
どちらのインサイトも、調査手法では定性調査(グループインタビュー、デプスインタビュー)、エスノグラフィー(行動観察)がメインとなります。
広く使われるようになったインサイト
主に定性調査によって得られる、消費者の潜在ニーズ、あるいは調査をするマーケターさえ気づかなかった知見。これらは数字では表すことのできないインサイトです。
しかし、近年、マーケティング・リサーチ、市場調査で得られる知見そのものがインサイトと呼ばれるようになっています。
欧州で誕生し75年の歴史のある世界最大のマーケティング・リサーチ団体「ESOMAR(エソマ)」では、従来の「市場調査産業」を「インサイト産業」と再定義しました。
「ESOMAR(エソマ)」の定義する「インサイト産業」とは、「さまざまなデータを収集・分析し、クライアントにインサイトを提供する産業」です。
そこで、ここではインサイトを「企業活動に活用できる消費者心理」(桶谷功著『インサイト』22ページより)と、広い意味(広義)で定義することにします。
定性調査や観察調査によって探索された消費者の潜在ニーズ、という狭義のインサイトに限定せず、定量調査を含めたマーケティング・リサーチによって得られる「企業活動に活用できる消費者心理」を、「顧客インサイト」とします。
顧客インサイトに基づいたトレンド予測
Freeasyでは2022年2月に「冷凍食品についての調査」、11月に「完全栄養食についての調査」という自主調査を行いました。
コロナ禍の中、日常の食生活のうち、「冷凍食品」と「完全栄養食」にフォーカスした調査結果から導き出された顧客インサイトが、食品メーカーや家電メーカーの新商品など、市場動向に反映されているのか否かを検証しましょう。
「冷凍食品」と「完全栄養食」の顧客インサイトが、市場動向に反映されていれば、2023年の市場も概ね同じトレンドで推移していくことが推察されます(トレンド予測)。
次からは、各調査結果のサマリー(注1)のうち、実際のアクションに結びつけるためのインプリケーションの中から、顧客インサイト(注2)を抽出してみましょう。
※(注1)サマリーとは、調査レポートの冒頭で、調査結果が一目でわかるようまとめた章のことです。
※(注2)顧客インサイトは 「カテゴリー・インサイト」と「ヒューマン・インサイト」で区分します。
冷凍食品の顧客インサイトと市場トレンド予測
カテゴリー・インサイトとヒューマン・インサイト
■インプリケーション
冷凍食品の利用率は8割を超え、生活者には十分、普及しているといえよう。
現在よく利用されており、今後の利用意向も強い〝王道〟品目は、「ギョウザ」「炒飯・ピラフ」の2品目だが、一方で〝飽和感〟もうかがわれる。 商品購入重視点では、価格・味・内容量とコスパ要素が上位に挙がっているものの、感じられている魅力は、買い物と調理における〝利便性と時短〟の各項目であり、 値頃感と味については、これからどれだけ消費者を満足させることができるのか?ということに冷凍食品の未来がかかっているという仮説も想定される。 ⇒ 「料理すると面倒なメニューの商品」化と「栄養バランスのとれた商品」の開発がキーとなる可能性もある。(カテゴリー・インサイト) 冷凍食品の利用増加による生活変化では、買い物回数減少と外食の内食化という購買と調理の行動面での変化が大きいが、家電製品である冷蔵庫需要も喚起している。(ヒューマン・インサイト) |
さらに、コロナ禍による買い物回数の減少と外食の内食化という生活の変化によって、冷蔵庫需要が喚起されているという調査結果は、すでに顕在化している事実ですが、企業活動に活用できる行動面でのヒューマン・インサイトです。
>>もっと詳しく! 定量データ(グラフ)による『カテゴリー・インサイト』、『ヒューマン・インサイト』の解説はこちらから【資料を無料ダウンロード】
冷凍食品の市場動向(2022年、2023年)
では調査を行った2022年2月以降、冷凍商品市場において、「料理すると面倒なメニュー」の新商品と、「栄養バランスを重視した」新商品は発売されたのでしょうか。
(株)フードテックラボが、「秒で旨い、おうち焼肉セット」という同社が東京都内で運営する焼肉店の味を家庭で体験できる商品を発売しました。牛肉を食べやすくカットして味をつけ、焼きたてを冷凍。電子レンジで温めれば焼き肉店の味を堪能できる商品です。(料理すると面倒なメニュー商品|カテゴリー・インサイト)
また、(株)ニチレイフーズが、2023年春の新商品では、本格的な味わいで食卓の主菜となる揚げ物や、野菜を多く取り入れた健康志向の商品が主力でした。
なかでもブロッコリーが丸ごと入った「野菜を食べるピラフ」は特徴的な商品です。(栄養バランスを重視した商品|カテゴリー・インサイト)
以上の2社はほんの一例です。他にも、大手メーカーから小規模のサロンに至るまで、カテゴリー・インサイトに対応して新商品が発売されていることがわかりました。
>> 他にもまだある!「2022年・2023年の冷凍食品の新商品情報」の一覧表を含む資料はこちらから【無料ダウンロード】
冷凍食品向け「冷蔵庫」の市場動向(2022年、2023年)
続いて、冷凍食品に合わせた「冷蔵庫」の新商品の発売状況を見てみましょう。
マクスゼン(株)が、「1ドア冷凍庫 JF 064ML01GM」を、同社のジェネリック家電ブランドから、2台目の冷蔵庫として提案していました。(冷凍食品のため冷蔵庫を買い替えたり2台目を買う|ヒューマン・インサイト)
また、ツインバード工業(株)が、「2ドア冷凍冷蔵庫 HR-F 915W」を、冷凍食品需要に応えて発売。73リットルの冷蔵室と、買い物かご約2個分の食材が入る同じく73リットルの冷凍室を揃えています。(同ヒューマン・インサイト)
冷蔵庫市場において大容量(庫内容量401リットル以上)が占める割合は、この10年間で縮小しています。それにもかかわらず、冷凍室容量の大型化が進んでおり、冷凍食品の需要の高まりがその要因であるといえます。
冷凍食品に合わせた家電メーカーの冷蔵庫も新発売され、冷蔵庫の大きさは小さくなっているのにもかかわらず、冷凍室の容量は大きくなっているなど、冷凍食品ユーザーのヒューマン・インサイトは、市場動向と密接な関係にあることがわかります。
>> 「2022年・2023年の冷凍食品向け冷蔵庫の新商品情報」の一覧表を含む資料はこちらから【無料ダウンロード】
冷凍食品のトレンド予測
「料理すると面倒なメニューの商品」と「栄養バランスのとれた商品」の市場投入が、冷凍食品市場のトピックとなること、さらには冷凍食品需要に対応した冷蔵庫(冷凍庫)市場の底堅さは、2023年も継続するトレンドとなることが推察されます。
完全栄養食の顧客インサイトと市場トレンド予測
カテゴリー・インサイトとヒューマン・インサイト
■インプリケーション
ユーザー拡大のキーとなるのは、認知度向上(チャネル拡大)と味の改善。
・完全栄養食の認知度向上とチャネルの拡大の余地は十分にある。 ⇒ ユーザーの利用頻度と継続利用意向は高く、認知度向上がユーザー増のキー。
⇒ 最も期待されているように、コンビニやスーパーで気軽に買えるようになると認知度は大幅に上がる可能性が高い。(カテゴリー・インサイト) ・具体的には手軽に喫食できるおやつよりも、食事がわり用途が生活者には刺さる。(ヒューマン・インサイト) ⇒ 「おいしさ」の追求は不可欠。 |
前述の2022年2月に実施した「冷凍食品についての調査」において、生活者の8割を占める冷凍食品ユーザーは、栄養の高さよりも栄養のバランスを重視するという結果を得られました。
続いて11月に実施した「完全栄養食についての調査」(上記インプリケーション)では、5割の認知者のうち1割のユーザーという、まだニッチな食品カテゴリーながら、栄養バランスを求める生活者の顧客インサイトが得られることを想定していました。
そして、認知度はまだ低くユーザー数も圧倒的に少ないながらも、完全栄養食ユーザーの満足度は7割弱、継続利用意向も7割弱と、とても高いことがわかりました。
よって、 喫緊の課題は、認知度の向上とチャネル拡大、さらに食事がわり用途という商品の訴求ポイントです。
>>もっと詳しく! 完全栄養食市場成長のポテンシャルや、定量データ(グラフ)によるカテゴリー・インサイト、ヒューマン・インサイトの解説はこちらから【資料を無料ダウンロード】
完全栄養食の市場動向
次に、市場を牽引する「ベースフード(株)」と「日清食品(株)」の2社の、2022年と2023年の動向を見てみましょう。
ベースフード(株)は、EC販売主体から、コンビニのファミリーマートやドラッグストアのサンドラッグでも販売するようになりました。(コンビニやスーパー、ドラッグストアなどで手軽に買えるようになる|カテゴリー・インサイト)
そして「デリシリーズ ボロネーゼ」という、具材が多く食べごたえがあり、夕食などの需要を見込んだ「食事がわりになる商品」が販売されました。(食事がわりになる商品|ヒューマン・インサイト)
日清食品(株)は、「完全メシ」シリーズを発売。第1弾には、既存の「ラ王」「カレーメシ」をはじめ、即席カレー、即席めん、グラノーラ、スムージーなどを展開しました。(食事がわりになる商品|ヒューマン・インサイト)
スギ薬局の全国約1,150店舗で販売し、各店舗に特設売り場やデジタルサイネージを設置したり、管理栄養士による商品説明などの販促活動も行いました。(コンビニやスーパー、ドラッグストアなどで手軽に買えるようになる|カテゴリー・インサイト)
>> 「2022年・2023年の完全栄養食の新商品情報」等を含む資料はこちらから【無料ダウンロード】
完全栄養食のトレンド予測
EC通販主体で認知度の低かった完全栄養食が、コンビニなど生活者に身近なチャネルに並び、サプリメントのような商品ではなく、食べ応えのある食事として、益々普及していくことが推察されます。
顧客インサイトやトレンド予測にまつわる、よくある質問
Q:定性調査や観察調査(エスノグラフィー)によって〝発見〟する狭義の顧客インサイトですが、もう少し具体的な調査方法を教えてください。
定性調査の場合、グループインタビューやデプスインタビューが多いと思いますが、対象者、あるいはインタビュアーが意識していなかったり言語化できないインサイトを明らかにするための、以下のような調査手法もあります。
写真調査
どのようなとき、どのような気持ちになるのかを把握するため、調査対象者にテーマに沿った写真を撮ってきてもらい、写真をもとに話し合います。写真ではなく、雑誌などの切り抜きを持ってきてもらうケースも。
コラージュ・エクササイズ
ブランドに対するイメージや感情、理想とするイメージなどを把握するため、テーマに沿って準備された写真を組み合わせて絵(コラージュ)を作ってもらい、話し合います。
Q:「企業活動に活用できる消費者心理」が「顧客インサイト」ならば消費者の意識や行動を心理学のように分析するまでもなく、冷凍食品や完全栄養食のケーススタディのような定量調査結果でも「顧客インサイト」になると考えて間違いありませんか?
はい。『インサイト』を執筆された桶谷功氏も同書の中で、インサイト発見のためには、自身がターゲットになりきって商品をつかってみるとか、売場に足を運んで商品を買ってみる、といったマーケティング・リサーチャーの基本のような姿勢が大切と書かれてます。
柔軟な姿勢こそ大切なのではないでしょうか。
現在、多くのビジネス・マーケティング雑誌(Webサイト含む)で、数多くの事例が紹介されている「顧客インサイト」を導出する手法・プロセスは、10社10様です。
結果として、あらゆる企業活動(商品開発から営業・販売まで)に貢献できる「知見」はインサイトでしょう。
>> Q&Aをもっと見たい方はこちらから「顧客インサイト・トレンド予測」にまつわる、よくある質問」【資料を無料ダウンロード】
無料ダウンロード『顧客インサイトと2023トレンド予測』
本記事で解説した内容をまとめた資料「冷凍食品と完全栄養食の2023年トレンド予測-2022年 Freeasy自主調査による顧客インサイト-」は、下記よりダウンロードすることができます(無料)。
こちらの資料では、記事には掲載されていない、
●各調査ごとの、定量データ(グラフ)による『カテゴリー・インサイト』、『ヒューマン・インサイト』の解説
●「定量調査の結果からインサイトを導く場合に出現率の高い項目に注目すべきか」や「カテゴリー・インサイトとヒューマン・インサイトは明確に区別できるか?」(よくある質問)
についても掲載しています。下記よりダウンロードしてご活用ください(無料)。
おわりに
ここまで自主調査から導き出した顧客インサイトとトレンド予測について解説していきました。ここで得た内容が、少しでもマーケティング・リサーチ業界で活躍されている皆様のお役に立てたら幸いです。
【参考文献】
『インサイト』(桶谷功著、ダイヤモンド社、2005年2月)/『インサイト 実践トレーニング』
(桶谷功著、ダイヤモンド社、2008年10月)