PEST分析とは?基本と事例を分かりやすく解説!
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はじめに
ここでは「PEST(ペスト)分析」に関する基本的な説明と、ケーススタディを紹介していきます。
この記事を読んで分かること、できるようになること
●PEST分析の基本が理解できる。
●PEST分析のケーススタディを知ることができ、ビジネスの現場でどう使えるかがわかる。
●すぐに使えるPEST分析のテンプレートや資料を、無料でダウンロードできる。
PEST分析とは
PEST分析とは、自社の属している業界を取り巻く外部環境(マクロ環境)を分析する、代表的なフレームワークです。政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の頭文字をとってPEST分析(ペストぶんせき)と名付けられ、この4つの動向を把握していきます。
マーケティングの第一人者であるフィリップ・コトラー氏が提唱しました。
マクロ環境分析とミクロ環境分析
マクロ環境分析とミクロ環境分析の違い
間接的に自社の企業活動に影響を与える外部環境を「マクロ環境」と言う一方、直接的に影響を与える、自社や競合他社が属している業界の外部環境を「ミクロ環境」と言います。
商品やサービスの開発をはじめとして、企業が事業を展開する上で、このミクロ環境を把握しておくことはとても重要です。
このようなミクロ環境を分析することを、マクロ環境分析に対して、ミクロ環境分析といいます。
他の分析手法との違い
マーケティング戦略を策定するための分析手法はたくさんあり、プロセスによって適している手法が異なります。下図はプロセスごとにまとめた一覧です。
環境分析の代表的なフレームワークといえば、PEST分析のほかに、「3C分析」を思いつく方が多いでしょう。3C分析の3つの視点「市場・顧客(Customer)」、「競合(Competitor)」、「自社(Company)」のうち、「市場・顧客(Customer)」と「競合(Competitor)」が「外部環境分析」の対象、自社が「内部分析」の対象に該当します。
>>【参考】リサーチマーケティング用語:「マーケティングフレームワークとは」
PEST分析の目的・役割
PEST分析を行う目的は、経営戦略の策定です。もちろんPEST分析だけで経営戦略が決まるわけではなく、環境分析の第一歩として、市場を巡る環境(背景)を客観的に可視化することがPEST分析の役割です。
PEST分析のメリット
PEST分析を行うメリットは、自社ではコントロールできないマクロ環境を整理・分析することにより、自社が成長するための機会を把握でき、リスクを未然に回避できることです。
PEST分析のデメリットと注意点
PEST分析のデメリットは、汎用性の高い分析ではないこと、つまり、必要とされる頻度は必ずしも高くはないということでしょう。さらに、以下の点に注意しましょう。
●PEST分析に限らず、フレームワークの内容を埋めさえすれば分析できた、と安心しないこと。
●経営課題の解決のために、必ずしもPESTの4要因全ての分析が必要とは限らないこと。⇒ 意思決定に必要な調査課題において、優先順位の高い要素のみで環境分析する柔軟性も必要です。
●あくまでも背景情報なので、経営層へ報告する場合、すでにわかっている“前置き”として軽視されることもあり、プレゼンテーションの流れに合わせて、柔軟に報告資料を作成する必要があること。
4つの要因の要素
PEST分析の政治、経済、社会、技術の4つの要因の要素は以下の通りです。
Politics:政治的要因
・国際情勢(戦争、紛争を含む)
・法律、条令、条約の改正
・判例
・規制緩和、強化
・税制の変化
・補助金制度、交付金制度の変化
・政策の変化
・政権交代
・マニフェスト
Economy:経済的要因
・経済成長率
・景気動向
・株価の変化
・金利の変化
・為替動向の変化
・原油価格の変化
・雇用情勢(失業率など)
・賃金動向の変化
・消費指数の変化
Society:社会的要因
・人口動態の変化
・社会問題
・世論の動向
・流行
・生活習慣
・ライフスタイル
・教育制度の変化
・宗教
・倫理
Technology:技術的要因
・インフラ整備
・技術革新
・特許
・イノベーション
・時代的に着目されている技術革新(IoT、AI/人工知能、メタバース、AR、機械学習、ブロックチェーン、ビッグデータ)
なお、経済的要因以外の3つの要因では、数値化(定量化)できない要素が多く、専門的な知識・知見が求められるケースが多くなります。
PEST分析のフレームワーク
下記は再掲となりますが、PEST分析のフレームワークです。4つの要因の各要素を、自社の経営課題に合わせて埋めていきましょう。無料のテンプレートを下記よりダウンロードできますので是非ご活用ください。
>> 「PEST分析のフレームワーク(テンプレート)」をいますぐ入手!【資料を無料ダウンロード】
PEST分析の事例(自動車業界のPEST分析・ケーススタディ)
ここからは事例として、「自動車業界のPEST分析」を試みましょう。
1.情報収集をし、4つの要素に当てはめていく
自動車業界は国の規制・税制など国内のみならず、環境基準など世界の政治的要因、景気など経済的要因、若者の「クルマ離れ」のような社会的要因の影響を強く受けますが、現在、最も注目されているのは、IoTによる自動運転、さらに新興IoT企業参入による業界構造の変化(技術的要因)でしょう。
●Politics:政治的要因 ①近い将来、ガソリンエンジン車は廃止される ②税金面において電気自動車(EV)など次世代車が優位になる ③自動運転技術についての法制度が整備される ④日本でのEVの普及は必至 ●Economy:経済的要因 ①コロナ禍による市場の縮小 ●Society:社会的要因 ①若者の車離れの進行 ●Technology:技術的要因 ①電気自動車の技術進歩 |
2.PEST分析結果の掘り下げ
自社の業種と自動車業界における自社の位置づけにより、前述のPEST分析結果の外部環境4要因のうち、どの要因がどの程度の優先順位・緊急性で自社の経営戦略に影響をするのかは100社100様です。
さらに、各要素の事実と解釈の区別も必須です。各要素の具体的な論拠をもとに、PEST分析結果の事実と解釈の区分をしましょう。
政治的要因の掘り下げ
まずは政治的要因から見てみましょう。
要素 |
具体的な論拠 |
事実or解釈 |
①近い将来、ガソリンエンジン自動車が廃止へ |
東京都など地方自治体は、集合住宅へのEV充電器の設置の補助金を拡充。 |
事実 |
②税金面において電気自動車(EV)など次世代車が優位になる |
ハイブリッド車(HV)を含めたガソリン車は、2024年から段階的に減税を受けるための基準が厳しくなり、実質的な増税となる。 |
事実 |
③自動運転技術についての法制度が整備される |
民間企業と地方自治体の連携により、各地で実証実験が行われている。 |
事実 |
④日本でのEVの普及は必至 |
欧米主要国では、2040年までにHEV(ハイブリッド車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)を含めたエンジン搭載車の販売が禁止となる。 |
事実 |
以上、政治的要因は4つとも事実です。
経済的要因の掘り下げ
次に経済的要因はどうでしょう。
要素 |
具体的な論拠 |
事実or解釈 |
①コロナ禍による市場の縮小 |
2021年の国内自動車販売台数は前年比3.3%減の444万台で、3年連続の減少(国際自動車工業会調べ)。 |
事実 |
②原油価格の高騰 |
自動車1台当たり製造コストの上昇、ハイブリッド車の売り上げ増、原油輸入依存度が高い新興国での需要減少圧力がみられる。 |
事実 |
③電力価格も高騰しており、充電インフラ整備などで足踏みしそう |
EVやプラグインハイブリッド車(PHV)の充電料金を引き上げる動きが広がっている。 |
事実 |
④景気低迷による消費者の購買力低下 |
自動車の価格は、安全性能や環境性能の向上により、従来価格よりも20~30万円ほど高くなっている。 |
事実 |
⑤注文を受けていても納車までに時間がかかっている |
自動車部品(半導体など)の不足によって販売が減少 |
事実 |
以上、経済的要因も政治的要因と同様、全て事実です。経済的要因では、短期的な自動車販売のマイナス要素が目立っています。
社会的要因の掘り下げ
次に社会的要因はどうでしょう。
要素 |
具体的な論拠 |
事実or解釈 |
①若者の車離れの進行 |
非正規雇用の増加による経済的事情や、コスパ意識なども要因だが、都市部と地方部での傾向の相違点はある。 |
解釈 |
②シェアリングエコノミー(カーシェアリング)の進展 |
2022年のカーシェアリングサービスの会員数は、前年比17%増の263万6千人と過去最高を更新(交通エコロジー・モビリティ財団調査)。 |
事実 |
③環境保護意識の高まり |
次のマイカーは「EVを検討」する自動車保有者が4人に1人(2022年夏、J.D.パワーのインターネット調査結果)。 |
事実 |
④クルマの実用的価値と情緒的価値の二極化 |
「移動目的」のクルマはライドシェアへ、「所有目的」のクルマは多品種少量生産のマス・カスタマイゼーションの商品となる(専門家による予測)。 |
解釈 |
以上、事実が2つ、解釈が2つという結果になりました。
「①若者の車離れの進行」は、近年マスコミで報道されることも多く、生活者調査結果も少なくありません。但し、都市部と地方部での傾向の違いもありますので、ここでは慎重に解釈としておきます。
「③環境意識の高まり」は事実としましたが、論拠であるインターネット調査結果では、過去からの比較でEV購入検討者が「4人に1人にまで増えたのか」「まだ4人に1人か」「EV検討といっても実際にEVを購入するのかはわからない」など、結果の解釈で議論となるかもしれません。
「④クルマの実用的価値と情緒的価値の二極化」は、専門家による予測であり、よく活用されています。
技術的要因の掘り下げ
最後に技術的要因はどうでしょう。
要素 |
具体的な論拠 |
事実or解釈 |
①電気自動車の技術進歩 |
首都圏の集合住宅でEV充電器設置が進行している。 |
事実 |
②自動運転システムのコスト低下と技術の進化 |
有力シンクタンクの予測によると、2030年には自家用車の高速道路での自動運転が一般化し、2040年には先進国の都市部で「タクシーは無人」が当たり前になる。 |
解釈 |
③インターネットテクノロジーとの融合の進歩(コネクテッドカーの普及など) |
GoogleやAppleなどIT企業の参入により、完成車メーカーと部品メーカーの垣根がなくなり、自動車産業はハードウェアからソフトウェア産業へと変貌する。 |
解釈 |
以上、事実が1つ、解釈が2つという結果になりました。
EVや自動運転など、自動車業界に関するマスコミ報道を目にすることは少なくありません。技術の進歩が著しく速いこともあり、未来予測(解釈)の話題が豊富です。
「②自動運転システムのコスト低下と技術の進化」は、有力シンクタンクによる予測(解釈)です。「③インターネットテクノロジーとの融合の進歩(コネクテッドカーの普及など)」は、自動車業界において“常識”となっている予測(解釈)です。
3.分析結果のまとめ
政治的要因、社会的要因、技術的要因では、電気自動車や自動運転へのシフトを後押しする要素が目立ちますが、経済的要因のみ、短期的な自動車販売のマイナス要素が目立っていました。
PEST分析において、4つの要因の間でこのように〝粒度〟が異なるのはよくあることです。
PEST分析における機会と脅威
PEST分析の際、最後に「機会」と「脅威」を区分をすることもあります。4つの要因の中の一つ一つの要素が、自社に対して有利なのか不利なのかが、一目瞭然になるからです。
しかし、機会と脅威については、マクロ環境分析のPEST分析ではなく、ミクロ環境分析のSWOT分析で外部環境の「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」に落とし込んだほうがいいでしょう。
意思決定をする上で、PEST分析の要素は多すぎることが多いからです。
もちろん、事実と解釈の違いのように機会と脅威を区分することも PEST分析において可能ではありますが、事実と解釈の区分とは異なり、有利なのか不利なのかは一目瞭然です。
よって、わざわざ資料を作成するために分析する時間や手間を考えると、ミクロ環境分析のSWOT分析にて必要な要素だけを取り上げるケースが一般的です。
PEST分析にまつわる、よくある質問
Q:PEST分析において、「政治的要因」と「経済的要因」のどちらの区分に当てはまるのか困ることがあります。分けるポイントを教えてください。
一般的に「政治・経済」と分類されるように、政治と経済を厳密に区分しなければならないことはありません。
例えば政治的要因の「税制」については、「税制」によって経済的な影響を受けることから、経済的要因と考えても決して間違いとはいえません。
法律を審議するのは政治(立法府である議会)ですが、自社や業界にとって「税制」による影響がとても大きいなどの場合、経済的要因としてカテゴライズするなど、柔軟に考えてもいいでしょう。
Q:「Technology(技術的要因)」の要素である「時代的に着目されている技術革新」は、必ず要りますか。
全ての業種で必ずしも要るということではありません。今回のケーススタディで取り上げた自動車業界をはじめ、現在は多くの業界でDXが推移され、AIの活用による影響を受けていることから、「時代的に着目されている技術革新」として強調しました。
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おわりに(まとめ)
PEST分析とは、4つの外部環境の頭文字をとって名付けられた、マクロ環境分析の代表的なフレームワークの1つであり、自社の経営戦略の策定に役立つことを解説してきました。
日常的に使用するフレームワークではありませんが、新商品やサービスの開発時、業界や社会情勢に大きな変化が起きたときにはぜひ活用していきましょう。