ゼロパーティデータとは?事例や1stパーティデータとの違い
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はじめに
ゼロパーティデータについて、基本情報、すぐに実践できるやり方などを、事例を交えながら分かりやすく解説していきます。
この記事を読んで分かること、できるようになること
●ゼロパーティデータの意味、注目されている理由、収集方法を正しく理解できる。
●ファーストパーティデータ・セカンドパーティデータ・サードパーティデータとの違いが分かる。
●ゼロパーティデータの具体的な事例を知ることができる。
●ゼロパーティデータの資料を無料でダウンロードできる。
ゼロパーティデータとは
ゼロパーティデータとは、消費者が自らの意思で、企業に活用されることを了承して提供するデータのことです。2018年に米国の調査会社「フォレスター社」が提唱したゼロパーティデータから、企業は個人の趣味・嗜好データを収集でき、サードパーティクッキーの代替として注目を集めています。
注目されるようになった背景
世界の動き
ゼロパーティデータが注目されるようになった最大の背景は、2017年にAppleが、サードパーティクッキーの利用制限を開始したことです。
翌2018年にはEU(ヨーロッパ連合)がGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規制)の適用を開始、クッキーを個人データ(個人情報データベースなどにおいて特定の個人を検索可能とするデータ)に指定し、その収集には同意が必要になると定めました。これは、クッキー単体が個人情報に指定されたということになります。
また同年、米国のカリフォルニア州でもGDPRと同等の法律であるCCPA(California Consumer Privacy Act:カリフォルニア州消費者プライバシー法)が成立し、全米に広がる動きを見せています。
その後、主要なブラウザの一つである「Firefox」がサードパーティクッキーを自動的にブロックする機能を搭載、Microsoftの最新ブラウザである「Edge」がクッキーの管理・削除機能を搭載するなど、プラットフォーマーによる自主規制も始まりました。
そして、世界最大のシェアを持つブラウザ「Chrome」の開発元であるGoogleも、2024年からサードパーティクッキー利用の段階的廃止の計画を発表しました。
日本の動き
世界での規制の動きを受けて、日本でも2022年に個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律)が改正され、クッキーを提供先で個人データと紐づけられる場合のみ、同意による収集が必要となりました。
ただしクッキー単体は個人情報にあたらないとしており、欧米と比べ緩いものでした。
しかし、2023年6月に施行された改正電気通信事業法では、クッキーを通じてWebサイト利用者の情報を外部に送信する場合、一定の情報提供が義務付けられました。
外部に送信とは、 Webサイトに埋め込んだプログラムによって、利用者の閲覧履歴や使用しているパソコンなどの情報を、外部に送信・収集するといったことが該当します。
なお規制対象には、第三者のWebサーバーに送信する場合だけではなく、Webサイトを提供する事業者が保有している別のWebサーバーに送信する場合も含まれます。
情報提供とは、外部に送信することについて通知や公表することを意味します。
つまり、国内でも欧米と同水準に規制が強化されたということです。
クッキー規制によりできなくなること
前述の規制によりできなくなることは下記の通りです。
- 広告の接触回数を、サイト横断・トータルで把握する。
- 自社サイト訪問前の広告接触と貢献度を分析する。
- サイトを横断してユーザーの行動履歴を収集し、ユーザー属性を推計する。
- 一度、サイトにアクセスしたユーザーを追跡し、再度、広告を配信する。
参考図(2つ)
1.世界と日本でのクッキー規制の動向
2.改正電気通信事業法のクッキー規制
ゼロパーティデータと他データとの比較
ゼロパーティデータと似た名前のデータはたくさんあります。ここでは他のデータとの違いを比較しながら解説していきます。
ファーストパーティデータとは
企業が顧客の許可を得て直接収集・追跡したデータ。
Webサービス上のクリック操作や、顧客の登録情報(氏名や住所など)が含まれる。
セカンドパーティデータとは
企業が自社では収集することが難しいデータを、パートナー企業などから収集したデータ。
例えば、ポイントサービスを提供しているパートナー企業による、詳細な会員情報などが、該当する。
サードパーティデータとは
自社やパートナー企業が保有していない、第三者機関が収集したデータ。
国や政府機関が公表しているオープンデータ、リサーチ会社が提供している情報や、企業情報も含まれる。
ゼロパーティデータとは(おさらい)
顧客が自発的に共有してくれるデータ。
顧客からのアンケート回答や、サービスにプロフィールを登録してもらうことで得られるデータ。
他のデータと比較すると、ゼロパーティデータの正確性と信頼性の高さが理解できるでしょう。
ゼロパーティデータの収集方法
ゼロパーティデータの代表的な収集方法は、セルフアンケート、ヒアリング、SNSの活用の3つです。1つずつ詳しく説明していきます。
セルフアンケート
ユーザーに、「簡単なアンケートにお答えいただければ、お客様に適した商品やサービスをご案内できます」などのメッセージを送信し、顧客の情報を収集する方法。
Web上でのアンケートや、郵送調査などをおこないます。
ヒアリング
オペレーターが電話などでヒアリングし、顧客から同意を得た上で、回答内容を顧客管理システムに取り込む方法。
例えば、サービスの中でよく利用する機能や、解約する場合の解約理由や理想の価格帯など、目的に合わせた質問をして回答してもらいます。
SNSの活用
ユーザーに、自身のSNSで自社の商品やサービスに関する情報を発信してもらう方法。
それによってユーザーの利用シーンや使用した感想を把握でき、SNSによる拡散も期待できます。
収集のポイント
ゼロパーティデータ収集には、顧客の手間や負担の軽減、データ収集の目的や結果の提示、社内での目的の明確化という3つのポイントがあります。
ポイント①顧客の手間や負担を軽減する
質問の回答時間や回答数を考慮し、顧客の負担を最小限に抑えること。そのためには、カスタマージャーニーの設計が望ましいです。
カスタマージャーニーとは、顧客がサービスを受けるプロセスを時系列に図式化したものです。顧客が質問に対して正確・スムーズに回答できるような仕組みを作るために有効です。
ポイント②データ収集の目的や結果の提示を予告
顧客の不安や不信感を解消し、前向きな回答を得るため、あらかじめデータ収集の目的の提示や、結果の発表を予告することが重要です。
新商品開発や、サービス向上のためにアンケートを実施している場合は、その目的を提示することや、自社HPや会員サイトでデータの結果を発表することで、ユーザーを安心させることができます。
ポイント③社内での目的の明確化
データ収集の目的は、「顧客の声を聴く」だけではなく、収集したデータのビジネス活用です。
既存商品の弱いところを改善したいのか、新商品の開発に役立てたいのか、目的によって聞くべき人や内容、分析方法が変わってきます。
また、目的が「顧客満足の向上」だけでは、施策が曖昧になる可能性が高いです。
ゼロパーティデータのメリットとデメリット
ゼロパーティデータには、「顧客自身が提供した『顧客しか知り得ない情報』を収集できる」というメリットと、「コストがかかる」などのデメリットがあります。
また、収集されたデータには、統計的な代表性はありません。
メリット
- 顧客に的確にアプローチできる。
- 顧客への理解を深められる。
- 顧客のロイヤルティを高めることができる。
デメリット
- 収集する際にユーザーへの対価を用意する必要がある。
- データ収集のコストがかかる。
- ユーザーの同意を得る手続きの手間がかかる。
- 既存の顧客や、広告主からのアプローチに応じてくれたユーザーに関する分析しかできない。
注目されたゼロパーティデータの収集事例、「ラコステ」デジタルキャンペーン
こちらは日本国内で注目された事例です。2021年、チーターデジタル株式会社と株式会社ラコステ ジャパンは、2つのゼロパーティデータ収集施策、を実施しました。
実施したデジタルキャンペーンは、「チャレンジしたい長袖ポロシャツカラー」「2020年秋冬新作アウターコレクション」です。
各キャンペーンの概要と収集されたデータ
キャンペーン「チャレンジしたい長袖ポロシャツカラー」の概要
ラコステの豊富な長袖ポロシャツカラーから、次回チャレンジしたい色を一つ選んで投票してもらうと同時に、ポロシャツを提案する際に必要となるゼロパーティデータを質問形式で収集。抽選で5名に最も投票数の多かった色のポロシャツをプレゼント。
収集したゼロパーティデータは、以下の通りでした。
- ポロシャツの着用シーン。
- 好きなポロシャツの色。
- チャレンジしたいポロシャツの色。
- ポロシャツ以外の購入検討アイテム。
キャンペーン「2020年秋冬新作アウターコレクション」の概要
VIPメンバーに向けてアウターファッションの診断を行い、診断過程でゼロパーティデータの収集を実施。キャンペーンフォーム画面の最後では、診断結果に基づいた2020年の秋冬新作アウターを表示し商品提案を行う。
収集したゼロパーティデータは、以下の通りでした。
- アウターを選ぶ際の好み、こだわり。
- 好きなファッションスタイル。
デジタルキャンペーンの成果
2つのデジタルキャンペーンにより、ラコステ ジャパンがそれまで実施していたアンケート形式よりも高いキャンペーン参加率が達成されました。
今までは店舗での接客でしか得られなかった、顧客それぞれの趣味嗜好や購買意向のデータを、Webのキャンペーンで収集することができました。
あたかもリアルに店頭で接客したかのようなキャンペーン商品の提供が、Web上であっても容易にできるようになったという成果です。
従来のアンケート調査のようなブランド視点による消費者調査とは異なり、「ラコステ」のブランドイメージを体現させる、インタラクティブなブランド体験を顧客に提供できたことも、大きな収穫でした。
国内外のゼロパーティデータ収集キャンペーン事例
他にも国内外の企業がゼロパーティデータ収集キャンペーンを実施してきました。3つご紹介します。
JTB(日本):「クイズに答えて旅に出よう」キャンペーン
コロナ禍の中、47都道府県別のトリビアクイズを用意し、顧客に楽しんでもらいながら、旅行へのニーズを収集。10日間で4万件以上のエントリーを獲得した。
ニュージーランド航空(NZ)
「You Say Yay」という施策を実施。新規の見込み顧客にクイズへ回答してもらうことで、食べたい食事や訪れたいランドマークなどについて情報を収集した。
顧客に対しては、ニュージーランド航空の豊富なバリエーションの就航先を見込み案内できた上に、新たに500万ドルの航空券予約の獲得にも成功した。
Les Millsグループ (NZ)
世界100か国でグループフィットネスプログラムを展開するLes Millsは、コロナ禍のステイホーム期間中に、クイズキャンペーンを実施。
キャンペーン参加者は、トレーニングメニューや生活習慣などに関する質問に答えることで、パーソナライズされたトレーニングアドバイスを得られ、さらに抽選でヘッドフォンやスピーカーなど、Les Millsのトレーニングプログラムを自宅で再現するために必要なツールを獲得できた。
2019年と2020年の比較では、ソーシャル広告費用が30%削減された上に、新規連絡先情報の獲得は80%にまで増加した。
ゼロパーティデータにまつわる、よくある質問
Q:ゼロパーティデータの代表的な収集方法は3つありましたが、他にはどのような方法がありますか。
賞品付きのクイズも良く使われています。また、無料セミナーの案内や、無料のホワイトペーパーのダウンロード、イベントなど、ゼロパーティデータの収集方法は多岐に渡っています。
Q:商品開発などでは、ゼロパーティデータとは別に、定量調査等を行う必要がありますか。
はい、必要になります。但し、既存顧客の満足度を高めたり、不満点を解消するために有用なデータは、ゼロパーティデータでも問題ありません。
Q:ゼロパーティデータの収集事例では、チーターデジタルのようなマーケティングテクノロジーベンダーとのコラボレーションが目立っていますが、自社のみでも行えますか。
ゼロパーティデータという概念自体、2018年に誕生した新しい概念であり、ラコステ ジャパンの他、ニュージーランド航空とLes Millsグループというニュージーランドの2社の事例も、チーターデジタルとタッグを組んだ成功事例です。
※チーターデジタルについて | Marigold Engage+ (チーターデジタル cheetahdigital.com https://www.cheetahdigital.com/jp/about-us/ )
日本の千趣会のようにEC分野での実績を蓄積してきた企業は、既にゼロパーティデータ収集のノウハウを有しています。
さらに、データ収集の方法は特に複雑ではないので、今後、メーカーや流通の事業会社が独自で展開していくことが予測されます。
無料ダウンロード『ゼロパーティデータ マニュアル 』
本記事で解説した内容をまとめた資料「ゼロパーティデータ マニュアル~クッキー規制対策をきっかけに広がる期待~」は、下記よりダウンロードすることができます(無料)。
おわりに(まとめ)
最後に、ここまで解説してきた内容をまとめました。今一度の確認に活用してください。 |
ゼロパーティデータとは、消費者が自らの意思で、企業に活用されることを了承して提供するデータのことで、サードパーティクッキーの代替として注目を集めています。
現在、ゼロパーティデータが注目されている背景は、世界的な潮流である個人情報保護のためのクッキー規制です。なお、正確性と信頼性の高さがゼロパーティデータの特徴です。
ゼロパーティデータの代表的な収集方法は、セルフアンケート、ヒアリング、SNSの活用の3つですが、他にも、無料セミナー申し込みやホワイトペーパーのダウンロードなど、様々な方法があります。
その際にポイントとなるのは、顧客の手間や負担の軽減、データ収集の目的や結果の提示を予告すること、社内での目的の明確化の3つです。
メリットは、顧客への的確なアプローチにより、顧客理解を深め、顧客のロイヤルティを高められることです。
デメリットはコストの高さ(顧客へのインセンティブとシステム運用)と、顧客からの同意を得る手間がかかること、収集データの代表性がないことです。
最も話題となっていた「ラコステ」のデジタルキャンペーンでは、高いキャンペーン参加率という成果が達成されました。
世界でも日本でも、まだクッキー規制動向に対する様子見もあり、2018年を元年とするゼロパーティデータの収集事例が大きく増えていくのはこれからでしょう。
【参考文献・ウェブサイト】
『新しいデジタルマーケティングの本』(野村総合研究所 広瀬安彦著、技術評論社、2024年1月)/『(株)千趣会「ゼロパーティデータとは?収集する方法とポイント、活用事例を紹介」』(https://www.senshukai.co.jp/btob/timeline/detail/000170.html)/チーターデジタル(株)「コロナ禍にフィットネスクラブが実践したゼロパーティデータ戦略」(https://www.cheetahdigital.com/jp/blog/jp-les-mills-cheetah-experiences-campaignlocalized/)/「Cookieの仕組みと種類|Cookie規制の影響と対策についても解説」(https://www.cheetahdigital.com/jp/blog/how-cookies-work-and-types-of-cookies/)