仮説の立て方|事例から学ぶ「仮説構築力」の身に付け方!
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はじめに|仮説構築力を身に付ける
ビジネスにおいて課題を解決するため『アンケート調査』を実施した際、回収結果を見たときに、「思った通りの回答しか集まらなかった」「やっぱりこういう結果だった」というような、新しい気づきも発見もない事態になったことはありませんか?
こうなると、残念ながらアンケートを実施した意味がなくなってしまい、課題の解決には結び付きません。
このような事態を避けるために重要となる思考・手段が、「仮説構築」です。
ここでは「仮説構築」の基本や、やり方について、ケーススタディ例とともに解説していきます。ビジネスに必ず役立つスキル「仮説構築力」を身に付けましょう。
この記事を読んで分かること、できるようになること
●仮説構築の意味が正しく理解できる。
●仮説構築力が身に付き、ビジネスの課題解決に役立たせることができるようになる。
●仮説構築について、ケーススタディを掲載した資料を、無料でダウンロードできる。
仮説構築とは
仮説構築とは、ビジネス上の課題解決のために、「仮説」を立て、検証していくことを言います。
「仮説」とは、読んでそのまま「仮の説」、つまり「まだ証明されていないが、最も答えに近いと思われる答え」のことです。
企業が意思決定をする場合、一般的にできるだけ多くの情報を収集してから意思決定をしようとする傾向がみられます。しかし、意思決定に時間がかかりすぎると、必要な施策の実行が手遅れになったり、新たな情報を求めて選択肢が増えすぎてしまったりして、意思決定を行う上で障害が生じます。
その障害を生じさせず、円滑に課題解決を進める手段として、仮説構築はとても有効といえるのです。
「仮説」は間違っていても構わない?
仮説とは「まだ証明されていないが、最も答えに近いと思われる答えのこと」ですが、そうであるならば、仮説は間違っていても構わないのでしょうか?
回答は、「はい、間違っていても構わない」です。全ての仮説が間違ってはいけないのであれば、検証する必要はないということになってしまいます。
繰り返しとなりますが、ビジネス上の問題点を幅広く探っていては、手間と時間がかかり、コスト負担が増します。さらに市場環境の変化のスピードについていけないというリスクもあるので、迅速な仮説構築と検証が求められるケースはとても多いです。
現状仮説と戦略仮説
ビジネスの現場における仮説は、下記の2段階に分けられます。
1.「現状仮説」
現状の問題の本質を明らかにします。
例えば、ある飲料メーカーが販売しているジュースの販売量が減少している場合、現状仮説として「天候の影響により販売量が減少している」という仮説を立てることができます。
この仮説は、まだデータや証拠をもって立証されたわけではないものの、現在の状況を分析し、推測されたものです。その後、この仮説を検証するために、天候データの分析やアンケート調査などを行うのが一般的です。
2.「戦略仮説」
解決策を策定します。基本的には、戦略仮説は、現状仮説の検証の後に構築して検証します。
前述の現状仮説と同じ例で解説します。ある飲料メーカーが販売しているジュースの販売量が減少している場合、戦略仮説として「販売促進活動を行うことで販売量を増やす」という仮説を立てることができます。
この仮説は、将来の状況に対して立てられる仮説であり、目標である『販売量の増加』を達成するためにどのような戦略を取るか、を考えるために立てられるものです。
一般的には、販促企画の立案や実施、販売促進ツールの制作などが行われます。
※ケースバイケースで、現状仮説の構築と検証の必要がなく、戦略仮説のみ検証することもあります。例えば「市場の現状」と「自社の商品・サービスの問題」が明らかになっている場合は、戦略仮説を策定し検証するだけでいいのですが、実際にはそういうケースは多くありません。
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仮説構築で活用するフレームワーク
有効的な仮説構築と検証をおこなうためには、マーケティングのフレームワークの活用がおすすめです。
ビジネス上の課題解決のための仮説構築では、考えられるだけの問題点(現状仮説)と解決策(戦略仮説)を列挙します。その際に、マーケティングのフレームワークが良く使われます。
主なフレームワーク
- 「4P(Product、Price、Place、Promotion)」
- 「3C(Company、Customer、Competitor)」
- 「SWOT(Strength、Weakness、Opportunity、Threat)」
実際のケースは多彩なため、必ずしも各フレームワークの全ての要素を網羅する必要はありません。
例えば「4P」のうち、問題となっているPriceとPromotionのみに絞った仮説を構築するようなケースもあります。
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仮説構築のケーススタディ事例「化粧品の売上改善策」
ケーススタディ事例として、「化粧品の売上改善策立案」の事例をみていきましょう。
ストーリー設計
ある化粧品メーカーのマーケティング企画スタッフは、収集してきたデータや観察結果、社内各部署のキーパーソンへのインタビューにより、以下のような仮説を立てました。
我が社のマーケティング戦略の課題は、個別の商品力(Product)や価格競争力(Price)にあるのではなく、ユーザーセグメントの変化に、マーケティング戦略が対応できていないことにある。
とりわけ顧客層が中高年から若者、女性から男性へシフトしていることに対し出遅れていることにある。
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次に、作成するレポート全体のストーリーを、「現状分析」「結論」「提案」の3つのフェーズに分けることにしました。
第1フェーズの「現状分析」では、【商品とコスト】、【ユーザーセグメンテーションと商品ポジショニング】、【プロモーションとチャネル】の3つの構成要素(ストーリー)を策定しました。
第2フェーズの「結論」は、【商品力と価格競争力に問題はない】ものの、【マーケティング戦略がユーザーセグメントとズレていること】としました。
第3フェーズの「提案」は、【ブランド再構築】と【マーケティング戦略の具体策】です。
以上を反映した全体の設計の概要を、分かりやすく図にまとめると、このようになります。
この場合、「現状分析」=現状仮説にあたり、「結論」=想定される現状仮説の検証結果となります。
現状仮説のうち【商品とコスト】は、収集済みのデータから、問題のないこと(フェーズ「結論」のうち【商品力と価格競争力は問題なし】)が既に検証されています。
よって、これからアンケートによる定量調査で検証されるべき現状仮説は、残りの2つ【ユーザーセグメンテーションと製品ポジショニング】と【プロモーションとチャネル】(フェーズ「結論」の【マーケティング戦略がユーザーセグメントとズレている】)ということになります。
その現状仮説の検証結果を受け、第3フェーズの「提案」に入ります。具体的には、その中の【ブランド再構築】においてどのような戦略を立てればいいのかという仮説を検証していきます。この「提案」フェーズでの仮説が、戦略仮説です。
現状分析(調査の前提)
第1フェーズ「現状分析」のストーリーに当たる部分を細分化してみましょう。これら細分化されたものは、調査の前提となるものです。
1.【商品とコスト】
●商品の品質は決して悪くはない。顧客からのクレームも少ない。
●多品種・少量生産が多く、競合大手に比べてコスト高ではあるが、マーケティング費用に比べると無視できる違い。
2.【ユーザーセグメンテーションと商品ポジショニング】
女性向け商品(女性向けブランドは普及品から高級品まで5ブランドも揃えている)
●中高年女性からの支持は高い。
●若い人からの支持は低い。
●ブランドイメージは「信頼・安全・オーソドックス」で、競合のブランドイメージは「躍進・革新・科学的」。
男性向け商品
●市場が拡大しているのは、女性よりも若い男性市場。
●男性向けには1ブランドしかない上に、ロイヤルユーザーは高齢化。
3.【プロモーションとチャネル】
●マーケティング投資は積極的に行っているが、ターゲットユーザーに届いているのか不透明。
●若い男性向けの雑誌やネットには、ほとんど手をつけていない。
●現在までのチャネルは、伝統的な化粧品店と百貨店、スーパーが中心で、ドラッグストアやコンビニでは弱い。
現状仮説の構築
次に、細分化されたフェーズ「現状分析」の内容を、「仮説」と「ファクト(既知の事実)」に分けていきましょう。ここでの「仮説」が現状仮説となります(分かりやすいように、「ファクト」の箇所は文字の色を薄くしました)。
1.【商品とコスト】
●商品の品質は決して悪くはない。顧客からのクレームも少ない。
●多品種・少量生産が多く、競合大手に比べてコスト高ではあるが、マーケティング費用に比べると無視できる違い。
2.【ユーザーセグメンテーションと商品ポジショニング】
女性向け商品(女性向けブランドは普及品から高級品まで5ブランドも揃えている)
●中高年女性からの支持は高い。
●若い人からの支持は低い。(=現状仮説。どの程度低いのかを把握する。)
●ブランドイメージは「信頼・安全・オーソドックス」で、競合のブランドイメージは「躍進・革新・科学的」。
男性向け商品
●市場が拡大しているのは、女性よりも若い男性市場。(=現状仮説。どの程度拡大していて将来性があるか把握する。)
●男性向けには1ブランドしかない上に、ロイヤルユーザーは高齢化。(=現状仮説。ユーザーの高齢化を把握する。)
3.【プロモーションとチャネル】(=現状仮説。ターゲットへの広告タッチポイントと、ターゲットのチャネル利用動向を把握する。)
●マーケティング投資は積極的に行っているが、ターゲットユーザーに届いているのか不透明。
●若い男性向けの雑誌やネットには、ほとんど手をつけていない。
●現在までのチャネルは、伝統的な化粧品店と百貨店、スーパーが中心で、ドラッグストアやコンビニでは弱い。
戦略仮説の構築
前述の全体のストーリー設計にて、
よって、これからアンケートによる定量調査で検証されるべき現状仮説は、残りの2つ【ユーザーセグメンテーションと製品ポジショニング】と【プロモーションとチャネル】(フェーズ「結論」の『マーケティング戦略がユーザーセグメントとズレている』)ということになります。
と説明したとおり、定量調査を行うことによって、現状仮説(前項の赤字箇所)が想定していた通りに検証されました。
つまり、フェーズ「結論」に記載していた、商品力と価格競争力には問題はないものの、『マーケティング戦略がユーザーセグメントとズレている』という仮説が検証されたわけです。
そこで次は、フェーズ「提案」に記載していた<マーケティング戦略の具体策>として、次の①~④の各施策が有効であることを戦略仮説として、調査によって検証していきます。
■戦略仮説 女性向けのブランドを5つから3つに整理・集約し、浮いた経営資源(商品開発・販売人員・販促費・広告費)を、新しい男性向けブランド構築に配分したい。 <マーケティング戦略の具体策> ①新たなターゲットは、これから男性化粧品を使い始める男子中高校生。 ②低価格帯の普及品を新規に開発する。 ③チャネルはコンビニとドラッグストアに限定し、既存の自社チャネルである化粧品店やスーパーでは展開しない。 ④広告は雑誌、ネット(口コミ含む)中心で、テレビ広告は行わない。 |
男子中高校生の男性化粧品利用のポテンシャルは、現状仮説で検証されています。
「認知」と「トライアル購入」に導くための施策案を、フレームワークの「購入ファネル」、「カスタマージャーニーマップ」などを活用しながら検討してみるのもいいでしょう。
仮説構築にまつわる、よくある質問
Q:仮説とその検証のためにはKPI(Key Performance Indicator)があったほうがいいと聞いたことがありますが?
あるほうがよいです。例えば商品の売上が減少している場合、購入者数が減っているのか、購入単価が下がっているのか、またはその両方なのか、という原因を突き止めることが必要です。
そして購入者数が減っている場合には、「認知率」「興味関心喚起率」「購入意向率」「トライアル率」「リピート率」に関して過去からのデータが揃っており、且つKPIがあれば、どの段階の指標で問題があるのかが明確になり、売上減の原因の仮説が構築しやすくなります。
Q:4Pや3C、SWOTなどのフレームワークは必ず使った方が良い?仮説と検証に関する重要な他のポイントは?
記事内で紹介した、マーケティングのフレームワークは必ず活用するべきなのか?活用するメリットは何か?や、記事内で紹介できなかった「仮説とその検証のために重要な、その他のポイント」については、無料でご用意している資料内にて、分かりやすくQ&A方式で解説しています。
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無料ダウンロード『仮説構築マニュアル』
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こちらの資料では、記事には掲載されていない、
●現状仮説を構築するための調査を行う例
●前述のよくある質問(マーケティングのフレームワークを活用するメリットなど)
についても掲載しています。
おわりに(まとめ)
冒頭で述べましたが、仮説構築とは、ビジネス上の課題解決のために「仮説」を立て、検証していくことを言い、マーケターをはじめどの職種においても身に付けておきたいスキルの1つです。
仮説構築力は、実践を何度も繰り返すことで、スピードや質が上がり、どんどん磨かれます。積極的に取り組んでみましょう!
【参考文献】
『仮説思考』(内田和成著、東洋経済新報社、2006年3月)/『「専門家」以外の人のためのリサーチ&データ活用の教科書』(米田恵美子著、東洋経済新報社、2022年4月)