SD法とは│アンケート例、調査設計のやり方、分析方法を解説
目次[非表示]
はじめに
SD法は、企業イメージや、ブランドイメージ測定、製品のイメージ評価などでよく利用されている測定方法です。ここでは、SD法による調査票の作成などの調査設計から、主なデータ分析方法までを、事例とともに丁寧に解説していきます。
この記事でわかること・できること
●SD法の調査票が作れるようになる。
●リッカート尺度とSD法の違いがわかる。
●SD法の調査結果を分析できるようになる。
●SD法に関するマニュアルを無料でダウンロードできる。
SD法とは
SD法とは、企業イメージや、ブランドイメージ測定、製品のイメージ評価などでよく利用されている測定方法です。「明るいー暗い」「陽気なー陰気な」など、反対の意味を持つ修飾語を両端に配置し、回答者にどちらに当てはまるかを多段階で回答してもらいます。
Semantic differential法の略でSD法と呼ばれており、米国の心理学者のオズグッドによって考案されました。
SD法では、測定対象となるブランドなどをコンセプトと呼びます。
このコンセプトを多角的に捉えるため、反意語のある修飾語(形容詞・形容動詞・副詞など)を多数用意し、それらを両端に置いた多段階の評価尺度(間隔尺度)に対してスコアをつけます。
そして、得られたスコア(数値データ)で各種の分析を行うことになります。
なお、オズグッドはSD法を用いた研究結果により、3つの基本的な意味のまとまり(属性)を見出しました。
SD法とリッカート尺度の違い
リッカート尺度とは、アンケート調査で使用される最も代表的な設問形式です。設問に対して、多段階の選択肢を用いて回答をしてもらうため、回答者がどの程度同意するかを測定することができます。
SD法とリッカート尺度の違いは、リッカート尺度では「はい」か「いいえ」を多段階で回答しますが、SD法では、逆の意味となる修飾語が両端にあり、どちらに当てはまるかを多段階で回答します。SD法のほうが、「どちらに近いか?」を感覚的に選ぶことができます。
リッカート尺度 |
SD法 |
「はい」か「いいえ」を多段階で回答する |
逆の意味となる修飾語が両端にあり、
どちらに当てはまるかを多段階で回答する
|
とてもあてはまる
ややあてはまる
どちらとも言えない
あまりあてはまらない
全くあてはまらない
|
明るい─暗い
積極的─消極的
騒がしい─静かな
|
SD法による調査設計
調査票の作成
反対の意味を持つ修飾語を両端に配置し、連続的に配置して調査票を作成します。
「【設問】この○○について最もよくあてはまると思うものをお選びください。」の場合の調査票例が下記です。
手順①修飾語対を選択する
調査票作成にあたり、修飾語対を選ぶ上での注意点を挙げます。
表現上の注意点
なじみの薄い表現や漢字は避けます。
《例1》「清々しいー鬱陶しい」という漢字を使うより、全てひらがなで「すがすがしいーうっとうしい」としたほうが好ましい。
《例2》「あつい」とその反意語の場合、「熱いー冷たい」「暑いー寒い」「厚いー薄い」のいずれか?
反意語のある語を選ぶ
否定の形容詞「~ない」は基本的に使いません。
《例 》もし「重い」に対し「重くない」を使った場合、「軽い」という反意語の他に「重くも軽くもない」「重いことが気にならない=わずかに重い」などの意味も含まれることになります。
オズグッドによる3つの基本属性に含まれる項目を盛り込む
評価性では「良いー悪い」「好きー嫌い」、
効力性では「強いー弱い」「大きいー小さい」、
活動性では「熱いー冷たい」「積極的なー消極的な」など。
手順②評価尺度の配列順序を決める
修飾語対を選定したら、それらの配列順序を決めます(調査票の縦方向)。
似通った修飾語対を前後に置かない
例えば「大きいー小さい」の次に「重いー軽い」が配列されていると、回答者が「大きい≒重い」「小さい≒軽い」という類似関係を連想し、二つの尺度を同一と捉えて同じスコアをつける可能性が生じます。
⇒ なるべく同じような属性が重ならないように配置します。
総合評価尺度は最後のほうに
総合評価の意味合いを持つ評価性の属性「良いー悪い」「好きー嫌い」などは、なるべく最後のほうに配置します。
コンセプトの順序性に合わせる
例えば食品をコンセプトとする場合、見た目の印象から始まり、匂い、咀嚼時の食感、味、食後の総合評価など、評価対象はいくつかの過程に分かれます。
この過程の順序に合わせて修飾語対を配置した方が、回答者にとって評価がしやすいでしょう。
手順③評価尺度の段階を決める
評価尺度の配列順序が決まったら、尺度の段階を決めます。
評価尺度は5または7段階
各評価尺度は間隔尺度を使うことが一般的で、通常は5または7段階です。
※9段階以上の場合、解析上の問題はありませんが、回答者の負担が著しく増加します。
順序性と等間隔性
選択肢となる程度の副詞は、順序性とともに等間隔性であることが必須です。
SD法に用いる修飾語対はたくさんあります。
《例 》大まか・細かい、あっさり・こってり、愛好的・嫌悪的、華美な・質素な、緩慢な・敏速な、客観的・主観的、几帳面な・ずぼらな、器用な・不器用な、肯定的・否定的など
下記よりダウンロードできるマニュアル(資料)では、上記例を含む200以上もの修飾語対の例を掲載していますので、是非参考にしてください。
SD法調査のデータ分析│「プロフィール分析」と「主成分分析」
データ分析の考え方
SD法のデータ構造の概念は下記の通りです。
m個のコンセプトに対し、n個の評価尺度を用いて、k人の回答者に評価してもらった場合、合計で m × n × k 個のデータが得られることになります。
分析するときには、各評価尺度の悪い(小さい)印象を示す極側のスコアを「1」に統一して入力します。
分析をする前に│SD法の調査票例
9項目7段階の評価尺度を用いて行ったSD法の調査票例です。コンセプトは12種類の香水ブランドA~Lです。
分析方法①「プロフィール分析(アウトプットイメージ)」
SD法の最も基本的な分析は、プロフィール分析です。以下はアウトプットイメージになります。
ここではわかりやすくするため、香水ブランド(A,C)の平均値をプロットしました。
(ここでは最大、12コンセプト=ブランドをプロットできます)
分析方法②「多変量解析(主成分分析と因子分析)」
コンセプトが放つイメージを多角的に捉え、少数の要素で表現するというSD法の目的に適しているのが、「主成分分析」と「因子分析」です。
「主成分分析」は、観測できる変数に内包されている情報を、できるだけ損なわずに少数の変数(主成分)に縮約します。経済学や社会学領域で多く用いられています。
「因子分析」は、観測できる変数(現象)の背後に潜んでいて、直接には観察できないもの(因子)を探り出します。心理学領域で多く用いられています。
上図:主成分分析と因子分析(国語の文章要約問題にたとえた場合)
主成分分析とは
主成分分析では、多くの変数を相関行列または分散共分散行列を用いて、少数の合成変数に縮約しますが、この合成変数を「主成分」と呼びます。
第1主成分は分散が最大(ということは説明力が最大=情報量が最大)の主成分のことで、第2主成分、第3主成分となるに従って分散が小さくなります。
各主成分同士は互いに無相関(独立)であることが、主成分分析の特徴です。
もし、第1主成分だけで元のデータ群が持っている情報の大部分を表せれば、それ以上の主成分を抽出する必要はありませんが、そうでない場合、第2主成分以下を抽出することになります。
主成分は観測変数の数だけ求めることができます(9つの場合は9主成分まで)。しかし、全ての主成分を使った場合、縮約はなりませんし、何よりもひとつひとつの主成分の情報量は少ないので使うことはありません。
主成分分析のより詳しい説明(固有値と寄与率や、主成分負荷量と主成分得点の解説)のほか、アウトプットイメージについては、資料内にてご紹介しておりますので、こちらも合わせてご覧ください。
SD法にまつわるよくある質問
Q:SD法はどんな場面で活用されますか。
SD法は元々、官能評価で用いられることが多く、現在も飲食品の新製品開発、品質改善などの目的で使われています。その感覚的な性格から、企業や商品・サービスのブランドイメージ測定など、利用範囲が広がってきました。
Q:SD法の最大のメリットとデメリットは何ですか。
SD法の最大のメリットは、選択肢における〝両端の対称性〟が鮮明であるということです。
逆の意味となる修飾語が両端にあり、しかも段階ごとの数字が表示されていれば「どちらに近いか?」を感覚的に選べるので、感性的なデータを取得し分析する際に適しています。
一方、デメリットとしては、オズグッドによる3つの基本属性に含まれる項目を盛り込む必要があるなど、調査設計時に入念さが求められることです。
主成分分析結果の例で明らかなように、第1主成分の意味は総合評価を表す「評価性」の内容が一般的であり、このような結果を導出するためには、評価尺度の項目は何でもいいというわけにはいきません。
Q:評価尺度の項目数の目安はありますか。
オズグッドの実験では50まで用いられていましたが、回答者への負担を軽減しモチベーションを維持するため、10~30程度が現実的です。
無料ダウンロード「SD法による調査設計と分析方法」
本記事で解説した「SD法による調査設計と分析方法」についてまとめた資料は、下記よりダウンロードすることができます(無料)。
おわりに
ここまで「SD法による調査設計と分析方法」について解説いたしました。難しい用語もたくさん出てきますが、1つずつの用語と手順をしっかりと理解し、実りのある調査・分析となりますように願っております。
【参考文献】
『数理的感性工学の基礎 : 感性商品開発へのアプローチ』(長沢伸也・神田太樹共編、海文堂出版、2010年9月)、『マーケティングリサーチ入門』(高田博和 他著、PHP研究所、2008年12月)、『ウルトラ・ビギナーのための SPSSによる統計解析入門』(小田利勝著、プレアデス出版、2007年6月)、『SD法によるイメージの測定 : その理解と実施の手引』(岩下豊彦著、川島書店、1983年1月